2006年 01月 14日
ミルコ・クロコップ
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今日の記事で、男祭りの話題は最後。本日はミルコ対ハントの試合を振り返る。何でもミルコは足首の怪我とインフルエンザという二重の体調の悪さだったらしいが、それでは強豪のハント相手に負けるのも当然だ。この試合は、あれから何度も何度も繰り返し見たが、はっきり言って試合内容に失望した人は多いと思う。自分もその一人だ。先日この試合の予想の時にも書いたが、前回K-1で試合をした時は、勝ちはしたものの際どい戦いだった。両者が実力的に僅差である以上、この調整の失敗は非常に大きな意味を持つ。そして負けた。今回の敗北は、体調管理を失敗したミルコ自身が招いた結果と言える。さて、それでは試合を見て気になった点が幾つかあるので、その点を見てみることにする。
まずは試合の転機について。ハントが圧力をかける、と予想で書いたが、試合の出だしはハントの圧力はさほど無い。ハントはミルコの攻撃を警戒しているようで、ハントは徐々に前に出ながらも、ミルコが主導権を握っている。ローキックを中心とした攻撃で先手を取っており、この序盤戦は通常のミルコの試合と変わりは無い。この流れが変化したのが開始4分ごろ。ミルコの左ストレートの終わり際に出したハントの左が、ミルコの顔面にきれいに入る。これを機に、一気にハントは圧力を強めて積極的に前に出るようになり、一方的にミルコを押し込むようになるが、これを試合の転機として認識している方は多いと思う。だがもう一つ、小さな転機が他にもあった。前述の転機をハントの動きの変化とするなら、もう一つの転機はミルコの動きの変化を呼んだ。開始1分半、ハントの頭部に軽くヒットしたミルコの左ハイがそうだ。
ミルコは開始直後はローを中心とした打撃での戦術を選択しているが、パンチを打ちながら入って組み付き、テイクダウンを狙う戦術へと途中から変更している。その転換を行ったのが開始1分半、左ハイの後だ。ハイを食らって下がるハントをミルコは追うが、ハントは簡単に立て直す。恐らくここでミルコは、打撃ではハントをKOするのは難しいと見て、グラウンドでの勝負を選択したのだろう。ここからミルコの動きに変化が生じている。ただしミルコにとって誤算だったのは、ハントが最後の最後になるまでテイクダウンを許さなかったこと。ハントがしっかり脇を締め、スタンドレスリングの練習をして来ていたため、まったく思い通りの展開に持ち込めなかった。もっとも、ミルコ側の技術不足も、テイクダウンを取れない大きな理由なのだが。ミルコが今まで行ってきたグラウンドの練習はガードを中心とした「負けない技術」で、テイクダウンしてからパウンドやサブミッションへ行く「勝つ技術」は二の次だった。恐らく、タックルの練習などにはあまり時間を割いていなかったに違いない、ミルコはパンチを出してから、そのまま何の工夫も無くただ組み付きに行っている。頭を下げることもしない。ヒョードルなどの強烈なタックルと比較するのは酷だが、それにしてもお粗末と言えよう。開始4分にもらったハントの左、これは実はミルコが組み付きに行こうと無造作に前に出た時、カウンターで入っているのだ。もしミルコがしっかりとしたタックルを習得していたなら、この左をもらうことも無かった。そしてこの後のハントの圧力が強まったことも、言うなればミルコのタックル技術の不足が招いたと言えよう。
次に触れたいのが体調。試合中、ミルコの体調の悪さから来るスタンドへの影響が、自分には二つ見られる。まず一つ目は体捌き。ミルコは本来、相手が前に出てきたところを体を入れ替え、相手の死角から攻撃するのを得意とする。つまり、スタンドにおけるポジショニングだ。K-1でハントと対戦したときも見られたが、今回はまったく見られなかった。PRIDEに参戦してからも、こうした体捌きはよく使っているので、K-1とPRIDEでは違う、と言う話は当てはまらない。ハントが積極的に前に出てきたなら、ミルコの得意とする体捌きを生かすチャンスであるのだが、今回はただ腕で突っ張って押し返すだけだった。これは体に本来のキレが無いからだ、と見てよいと思う。二つ目はハイキック。1Rに軽くヒットし、3Rにはまともに直撃している。いくらハントが尋常ではなくタフだとは言え、その後も平然としているのは、ミルコの持つ左ハイの威力を考えると、やはりただ事ではない。K-1時はダウンを奪っているが、ハントはすぐに立ち上がってきた。しかし、直後にはダメージの影響が見られたものだ。今回の威力の低減は、やはり足首の怪我の影響か。今まで自分はミルコの左ハイの映像を、それこそ数え切れないくらい見てきたが、この試合のミルコの左ハイ、足の踏ん張りが利いていないような気がする。もしかしたら私の勘違いかもしれないが、それがインパクトの直前~瞬間に、全身の力をうまく左足に集中させることが出来ない要因になっているように見える。
先日の試合の戦いを自分なりに振り返ってみたが、ミルコの戦いからは結局「生まれ変わったようなスタンディングファイト」を見ることは出来なかった。踵落としを出してはいたが、ただそれだけで生まれ変わったとは言えない。私が予想で書いた通り、ミルコのスタンドはヒョードル戦からの4ヶ月では改善されず、ハントからテイクダウンを満足に奪うことも無理だった。今までは左ハイ一本を武器として、勝ち星を重ねてきたが、ここでミルコは本当に生まれ変わらなければならないのかもしれない。格下相手には通用しても、現状の中途半端な状態 あえてこう言わせて貰う では、トップ戦線で生き残ることは難しい。スタンドを磨いて今一度キックボクサー時代のスタンド攻撃力を身に付けるのか、それともグラウンドで攻めて勝利を手にするだけの技術を習得するのか。現状での限界が見えている今、ミルコは自らに何か革新をもたらさなければならないのではないか。
そして最後にもう一つ、ミルコのPRIDEを通しての敗戦について。PRIDEでは4敗しているが、以下に並べてみる。
1.アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ戦/優勢に進めるも逆転負け
2.ケビン・ランデルマン戦/映画撮影で集中できず
3.エメリヤーエンコ・ヒョードル戦/前日寝ず・満足にスタンドの練習できず
4.マーク・ハント戦/足首の怪我・インフルエンザ
こうやって見てみると、ミルコは非常に脇が甘い。特にGP2004 1st ROUNDで対戦したケビン・ランデルマン戦などはその最たるもので、知らぬ者はいないだろう。ミルコはハント戦の敗戦翌日に出したメッセージの中で「俺の調整の失敗だ」とはっきりと言っているが、以前に金原弘光戦に調整不足のまま臨み、判定まで持ち込まれたときの教訓は何処へ行ったのか。あるいは格闘家なら誰しも、懸念の一つや二つを抱えてリングに上がることはあるだろうが、ミルコの場合はそれがことごとく敗戦につながっているのが問題だ。ヒョードルやノゲイラは体調不良や怪我などで万全ではない状態のときでも、リングの上で結果を出しているではないか。さてここで誤解の無い様に言っておくが、自分は何も「万全の状態ならミルコが最強だ」などと、ファンの贔屓で言いたいのでは無い。むしろその逆だ。ミルコは今のままではベルトを巻くことは出来ない。自分は以前から思っていたのだが、ミルコの持つ脇の甘さ・脆さとは、ミルコに常に付きまとう彼の本質の一部なのではないか。そもそも総合に参戦した当初、グラウンドはまったく駄目でスタンドでの打撃のみ、というファイトスタイルからして、危うさを秘めたものだった。しかしグラウンドでの適応を見せ始めると、脇の甘さが目立つようになった。彼には常に、何らかの脆さが付きまとっている。だから思う、ミルコはこのままでは玉座に就けないと。自らの致命的な欠点を克服しない限り。
さて長々と書いたが、かなりミルコには厳しい内容になってしまった。お前は本当にミルコファンか、と言われそうだが、これもミルコに頂点を目指して欲しいがために言っている事だ。私は格闘技に臨む彼の姿勢が好きで、彼のファイトが好きで、そして彼のファイトを見て様々な多くのものを貰った。私はミルコ・クロコップという格闘家が、このまま埋もれてしまう光景など見たくは無い。例えつまずいても、上を目指して歩き続ける姿こそが、彼には似合う。そして私は、彼を応援し続ける。
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まずは試合の転機について。ハントが圧力をかける、と予想で書いたが、試合の出だしはハントの圧力はさほど無い。ハントはミルコの攻撃を警戒しているようで、ハントは徐々に前に出ながらも、ミルコが主導権を握っている。ローキックを中心とした攻撃で先手を取っており、この序盤戦は通常のミルコの試合と変わりは無い。この流れが変化したのが開始4分ごろ。ミルコの左ストレートの終わり際に出したハントの左が、ミルコの顔面にきれいに入る。これを機に、一気にハントは圧力を強めて積極的に前に出るようになり、一方的にミルコを押し込むようになるが、これを試合の転機として認識している方は多いと思う。だがもう一つ、小さな転機が他にもあった。前述の転機をハントの動きの変化とするなら、もう一つの転機はミルコの動きの変化を呼んだ。開始1分半、ハントの頭部に軽くヒットしたミルコの左ハイがそうだ。
ミルコは開始直後はローを中心とした打撃での戦術を選択しているが、パンチを打ちながら入って組み付き、テイクダウンを狙う戦術へと途中から変更している。その転換を行ったのが開始1分半、左ハイの後だ。ハイを食らって下がるハントをミルコは追うが、ハントは簡単に立て直す。恐らくここでミルコは、打撃ではハントをKOするのは難しいと見て、グラウンドでの勝負を選択したのだろう。ここからミルコの動きに変化が生じている。ただしミルコにとって誤算だったのは、ハントが最後の最後になるまでテイクダウンを許さなかったこと。ハントがしっかり脇を締め、スタンドレスリングの練習をして来ていたため、まったく思い通りの展開に持ち込めなかった。もっとも、ミルコ側の技術不足も、テイクダウンを取れない大きな理由なのだが。ミルコが今まで行ってきたグラウンドの練習はガードを中心とした「負けない技術」で、テイクダウンしてからパウンドやサブミッションへ行く「勝つ技術」は二の次だった。恐らく、タックルの練習などにはあまり時間を割いていなかったに違いない、ミルコはパンチを出してから、そのまま何の工夫も無くただ組み付きに行っている。頭を下げることもしない。ヒョードルなどの強烈なタックルと比較するのは酷だが、それにしてもお粗末と言えよう。開始4分にもらったハントの左、これは実はミルコが組み付きに行こうと無造作に前に出た時、カウンターで入っているのだ。もしミルコがしっかりとしたタックルを習得していたなら、この左をもらうことも無かった。そしてこの後のハントの圧力が強まったことも、言うなればミルコのタックル技術の不足が招いたと言えよう。
次に触れたいのが体調。試合中、ミルコの体調の悪さから来るスタンドへの影響が、自分には二つ見られる。まず一つ目は体捌き。ミルコは本来、相手が前に出てきたところを体を入れ替え、相手の死角から攻撃するのを得意とする。つまり、スタンドにおけるポジショニングだ。K-1でハントと対戦したときも見られたが、今回はまったく見られなかった。PRIDEに参戦してからも、こうした体捌きはよく使っているので、K-1とPRIDEでは違う、と言う話は当てはまらない。ハントが積極的に前に出てきたなら、ミルコの得意とする体捌きを生かすチャンスであるのだが、今回はただ腕で突っ張って押し返すだけだった。これは体に本来のキレが無いからだ、と見てよいと思う。二つ目はハイキック。1Rに軽くヒットし、3Rにはまともに直撃している。いくらハントが尋常ではなくタフだとは言え、その後も平然としているのは、ミルコの持つ左ハイの威力を考えると、やはりただ事ではない。K-1時はダウンを奪っているが、ハントはすぐに立ち上がってきた。しかし、直後にはダメージの影響が見られたものだ。今回の威力の低減は、やはり足首の怪我の影響か。今まで自分はミルコの左ハイの映像を、それこそ数え切れないくらい見てきたが、この試合のミルコの左ハイ、足の踏ん張りが利いていないような気がする。もしかしたら私の勘違いかもしれないが、それがインパクトの直前~瞬間に、全身の力をうまく左足に集中させることが出来ない要因になっているように見える。
先日の試合の戦いを自分なりに振り返ってみたが、ミルコの戦いからは結局「生まれ変わったようなスタンディングファイト」を見ることは出来なかった。踵落としを出してはいたが、ただそれだけで生まれ変わったとは言えない。私が予想で書いた通り、ミルコのスタンドはヒョードル戦からの4ヶ月では改善されず、ハントからテイクダウンを満足に奪うことも無理だった。今までは左ハイ一本を武器として、勝ち星を重ねてきたが、ここでミルコは本当に生まれ変わらなければならないのかもしれない。格下相手には通用しても、現状の中途半端な状態
そして最後にもう一つ、ミルコのPRIDEを通しての敗戦について。PRIDEでは4敗しているが、以下に並べてみる。
1.アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ戦/優勢に進めるも逆転負け
2.ケビン・ランデルマン戦/映画撮影で集中できず
3.エメリヤーエンコ・ヒョードル戦/前日寝ず・満足にスタンドの練習できず
4.マーク・ハント戦/足首の怪我・インフルエンザ
こうやって見てみると、ミルコは非常に脇が甘い。特にGP2004 1st ROUNDで対戦したケビン・ランデルマン戦などはその最たるもので、知らぬ者はいないだろう。ミルコはハント戦の敗戦翌日に出したメッセージの中で「俺の調整の失敗だ」とはっきりと言っているが、以前に金原弘光戦に調整不足のまま臨み、判定まで持ち込まれたときの教訓は何処へ行ったのか。あるいは格闘家なら誰しも、懸念の一つや二つを抱えてリングに上がることはあるだろうが、ミルコの場合はそれがことごとく敗戦につながっているのが問題だ。ヒョードルやノゲイラは体調不良や怪我などで万全ではない状態のときでも、リングの上で結果を出しているではないか。さてここで誤解の無い様に言っておくが、自分は何も「万全の状態ならミルコが最強だ」などと、ファンの贔屓で言いたいのでは無い。むしろその逆だ。ミルコは今のままではベルトを巻くことは出来ない。自分は以前から思っていたのだが、ミルコの持つ脇の甘さ・脆さとは、ミルコに常に付きまとう彼の本質の一部なのではないか。そもそも総合に参戦した当初、グラウンドはまったく駄目でスタンドでの打撃のみ、というファイトスタイルからして、危うさを秘めたものだった。しかしグラウンドでの適応を見せ始めると、脇の甘さが目立つようになった。彼には常に、何らかの脆さが付きまとっている。だから思う、ミルコはこのままでは玉座に就けないと。自らの致命的な欠点を克服しない限り。
さて長々と書いたが、かなりミルコには厳しい内容になってしまった。お前は本当にミルコファンか、と言われそうだが、これもミルコに頂点を目指して欲しいがために言っている事だ。私は格闘技に臨む彼の姿勢が好きで、彼のファイトが好きで、そして彼のファイトを見て様々な多くのものを貰った。私はミルコ・クロコップという格闘家が、このまま埋もれてしまう光景など見たくは無い。例えつまずいても、上を目指して歩き続ける姿こそが、彼には似合う。そして私は、彼を応援し続ける。
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by moonemblem
| 2006-01-14 04:14
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